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とりっくおあとりーと 

「ミロ、ちゃんとぼうしのひもをしないと、耳がおっこちるよ」
カミュがいつもの真面目な口調で言いました。ミロはあごの下に回したひもを、きゅっと結びなおしますが、大きな手袋をしているのでうまくできません。カミュが手伝います。丸いつるつるのほっぺと、青い目と、お耳がなかなか可愛い調和を作っています。
「おかしくないかな?」
「おかしくないよ」
ハロウィンを祝うのは、二人とも初めてのことで、どきどきそわそわです。
去年の今頃はミロもカミュもまだ候補生だったので、楽しいお祭りを祝おうなんて優しいことを言う人はいませんでした。毎日生きるか死ぬかでそれどころではありませんでしたし。
今年、遊ぶ許可が出たのは、サガが『小さな聖闘士達に世俗の暮らしを見る機会を』とお願いしてくれたのもありますが、子供には褒美が必要だと教皇様が思ったからです。まったく聖域を守るのも大変なことなのです。
「なあ、カミュ、俺、オオカミ男になったぞ!」
金色のふわふわした髪のミロは、大きなくりくりの目で、友達にくいついていきます。頭の上には狼の灰色をしたおみみが乗っかっていますし、裾をぼろぼろに切った半ズボンのお尻には同じ色のしっぽが、針金の力で逆立っています。靴の上は、ふくらはぎの辺りまでフェイクファーのレッグウォーマーで包んでいますので、立派に子狼さんに見えました。
「私は今日はジャックフロストになるんだ」
シベリアの真冬みたいな、ふわふわの白い外套とズボンをはいていました。頭の上からすっぽり白いフードをかぶっています。
足元は二人とも半ズボンですが、カミュはカボチャみたいにふくらんだシルエットです。もこもこの靴もタイツも白でした。一体誰がこんなのを用意したのでしょう。
「ジャックフロストより雪だるまみたいだな」
全身がまんまるくなってしまって、ミロにはそう見えます。暑そうなのに、カミュの小さな顔が涼しそうなのは、いつもの冷たい力のせいでしょうか。
「私もそう思うけど、サガがこうしなさいって」
「サガがいうんならしょうがないな」
二人は、いえみんなが、年上のふたご座を大好きです。いて座のアイオロスも大好きです。みんなが大好きなので、二人とも口にはしませんが、一緒に黄金になれてよかったなあ、と思っているのでした。

白羊宮の下で、シーツをかぶって幽霊の姿になったサガが待っていました。
「二人が帰ってきたら、シュラやアフロディーテが行くからね。早めに帰ってくるんだよ」
青銅や白銀の小さな家が並ぶ界隈を抜けて、ひらひらした異国の妖精の仮装をしたシャカと、可愛い子羊の格好をしたムウが戻ってきました。
「二人ともたくさんもらえたかな?」
「ええ、まあ」「くだらぬ遊びだ」
サガの問いに気のない調子で、もう一人はつまらなさそうに答えながら、二人ともほっぺたはもごもごと動いていました。手にした籠はお菓子でぱんぱんです。大層ご満悦なのは、親しければ誰にでもわかることです。
「じゃあいっておいで」
と、サガが肩を押しました。
「いってきまーす!」
と、小さな二人は走り出しました。

ロドリオ村では、村人が示し合わせて、お菓子を用意してくれていました。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
「いたずらします」
「あらまあ、かわいい雪だるまさんと狼男さんねえ!」
狼男と雪の妖精がドアをたたくと、どの大人も目を細めてチョコや飴をくれます。そのドアの向こうで、小さな子供や、犬や猫や、おじさんたちがこっちをうかがっているのが、二人にはとても珍しいのです。
「わあ、お菓子こんなにもらっちゃったね」
「ちゃんと歯磨きしないと、アイオロスに怒られる」
二人は久しぶりに子供に戻って、お菓子のたまり始めた籠を覗き込んではしゃぎます。
「いつもいつもありがとうございます」
おばあちゃんが目を細めて言いました。その言葉には、とても沢山の感謝が詰まっていました。

大人の人がお酒を飲むお店で待ち構えていた店主に、さくらんぼのジュースをもらったところで、遠くから、きゃー、と金切声が聞こえてきました。
「強盗よ! そいつよ!」
黒いぼろぼろの布を被った大きな人が、表通りの向こうから走ってきます。みんな浮かれているときによからぬことを考える不届者は、いつだっているのです。
「どうする?」
狼男が尋ねました。
「決まってる。つかまえる。ただしあんまり荒っぽいのはダメ。アイオロスに怒られる」
「わかってるよ!」
カミュは左手に、ミロは右手に、籠を持ち替えました。
向こうから、手にナイフを光らせながら、大きな男が走ってきます。顔に青黒く化粧をして、人相を隠しているのがわかります。
その目の前で、右手と左手をつなぎ合って、小さな二人の妖精が立ちふさがりました。

「はあ? どけ、ガキ、し、死にたいか」
口からはあはあと荒い息を吐きながら、男は腰の高さより小さな二人を見下ろしました。もうクスリが切れていてつらいのです。一刻も早く手に入れた金で悪いクスリを買って注射をしたいのに、このちびどもが邪魔をするのなら殺しても、と真剣に思っていました。二人ともとてもかわいい子供でしたが、やるときにはやらねばならないのです。
「トリックオアトリート」
そんな必死の男を前に、赤毛の雪だるまはひどく冷静でした。
「は?」
きょとんとする男に、狼男がもふもふの手を突き出しました。
「手に持ってるもの全部出すか、いたずらされるか、どっちがいい?」
かわいい狼男がいたずらっぽく言いました。
というより、明らかにバカにしています。
かっとなって、手にしたナイフを振るおうとした、その瞬間です。
「しょうがないなあ」
何かが体の中をぴん、とはじくように突き抜けました。
そのあとを、ひやりとした痛いような冷たさがつつみました。
男は理解ができませんでした。痛いのです。薬の禁断症状が全身を食い荒らすより痛く、冷たく、それらは追いかけあいながら、男を苛みます。彼は知りませんが、狼の毒の爪と、ジャックフロストの雪の吐息でした。
「ぎゃ、ああ、ぐがああ、ああああ、」
周りで『流石聖闘士様!』だとかなんとか、歓声が聞こえました。
強盗はといえば、白亜の地面にもんどりうっていましたが、もう何もわからなかったかもしれませんしその方が幸せだったでしょう。痛くて寒くて寒くて痛くて、その狭間で、頭がおかしくなってしまうでしょうから。

警察に強盗を引き渡して、沢山の賞賛の声とお菓子をもらい、二人はキラキラした目をして帰ってきました。
もちろんしっかりと、手袋の手を握り合っています。
「二人とも頑張ったそうだな」
「俺たち、がんばった! カミュがいるからすごく楽だったよ」
「うん。ミロがいたから安心できた」
「二人とも、無茶はしないようにな」
天使の格好をしたアイオロスが二人の頭を撫でてくれました。おおざっぱなので、お耳もケープもずれてしまいましたが、二人とも少し恥ずかしげに、面はゆい顔を見かわして、にこっと笑いました。
今日はこのまま、ミロの天蠍宮に泊まっていくつもりです。今日のことをいっぱい話して、もらったおやつをたくさん食べるのです。
歯磨きを忘れちゃうかもしれませんが、それくらいのご褒美は、きっとアイオロスも許してくれるんじゃないかなあ、と二人はうきうきと階段をのぼっていきながら、思っていました。

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