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Trick or treat! 

どうしてお前は、いくつになってもこうなのだろう?
デジェルは、書見台を置いた窓辺から、眼鏡越しのまなざしを、陽だまりに向けている。

「お前さあ、もうちょっと気合を入れて飾り付けろよな? ちっこい女神様が楽しみになさってるんだぜ」
無造作に、庭の裏手にいくつも転がしておいた大きなカボチャを、屈みこんだ丸い背中が撫でていた。長い髪の青光りが、たくましい体を覆っていた。
「そもそも聖域にそんな習わしはなかろう」
「この間、どっか北の方からご挨拶が来てな。そいつが女神様に、楽しい風習を吹き込んでいったのさ」
デジェルは答えない。それより先に、目を通すべき資料がある。
「なあ、お前どう思う? せっかくカボチャに生まれたのに、なにが悲しゅうてこんなところで寝てなきゃならないんだ?」
気が散るから、静かにしてくれないか。そもそも、カボチャはカボチャだ。心などないのだ。

「ウン、サビシイデス。ボクモカッコヨクナリタイナー」

屈強な男の裏声に、流石にぷっ、と噴いた。したり、とばかりの笑顔が、窓の下で振り向いた。
「あ、やっぱり盗み聞きしてたんだ。すけべ」
「何が、すけべか。お前の語らっていた相手は、私の夕餉の、カボチャだぞ」
いつもこの男には調子を崩される。それがわかっていて、彼の声に耳を傾けてしまう自分が、デジェルには不可解だ。
「はあ? こんなん、食うの? 水っぽくて不味いのに」
怪訝そうな顔で、橙色の巨大なかぼちゃを叩くカルディアの無知を、ただす。
「ああ。そのままでは大味だが、調理次第で美味くもなる」
「デジェル、こいつ、使っていいんだろ?」
聞いていない。この子供のような男は、興味のあることにだけ意識が向くのだ。
「好きにすればいい」
「よし、俺がランタン作ってやる!」
麻の粗末な服の袖を捲り、カルディアは懐から切り出しナイフを取り出した。
太陽を思わせる、明るい黄色の皮に、ぎらぎら白く光る刃先がぐさりと吸い込まれた。
切れ味のいい刃が前後に動きながら、大きく横に広がった口の形を掘り抜いていく。
「なあ、デジェル、たまにはこういうこともしろよ」
やけに真剣な顔でカルディアが言う。丸い穴を二つ開けるのは、目になるのだ。
「こういうこと?」
「本ばかり読んでいないで、外に出んだよ。今しかできないことをしろよ。トリックオアトリート。お菓子くれなきゃいたずらするぞ?」

言葉が、胸の奥を軽く突き刺した気がする。
本ばかり、戦いばかり、それの何がいけないと反感を抱きつつも。
彼の言葉が突き刺しえぐった先にあるのは、カボチャと同じ空洞かもしれない。

「お、デジェルさんもおでまし?」
本を閉じ立ち上がって、デジェルは窓の外に出た。
まだ真冬は遠く、日差しが温かく、地面を照らしていた。そこにデジェルもしゃがみ込む。
「私は何をすればいい?」
「そっちの奴も、こいつみたいにかっこよくしてやんな」
ナイフを渡され、デジェルはいつになく真剣に、カボチャに向き合った。
「ふむ、それでいいのか。簡単なことだ」
「それができたら、宮の入り口に飾る。それから、女神様が仮装しておいでになるから」
「いかん、掃除とお出迎えの支度をせねば」
「明日の夕方までに、菓子を用意しとけ。干し果物でいいから。あとはそうだな……」
その時、カルディアの唇がにや、と片側だけ笑みを刻んだのを、デジェルは知らない。
「仮装だな。お出迎えする方も仮装するのがならわし。昔話の化け物や魔女がいい」
「困ったな。何かあっただろうか」
菓子は明日の昼のうちに作ればいい。飾り付けもどうにかなる。あとは仮装だ。どんなものを着ればいいのだろう?
昔話などと言われても、はて、ぴんとくるものがない。
早く資料を読み終わったら、本を調べて、妥当なものを見つけ出さなければ。奇怪な動物は無理だ。なんでもいいから、夜通しでこさえなければ。大したものは作れないだろうが、こうして仮装めいたことを楽しむのも、まあ、悪くはないだろう。
子供みたいな男に、何故かいつも翻弄されてしまう。だがそれが、決して嫌いな気はしないのが、デジェルには不思議だった。

そう心に決め、結局手持ちの黒い布を徹夜で縫った魔女の服と帽子で待ち構えてみたものの。
「デジェルも、みんなのところに行ったの? 誰も仮装してなかったのに!」
見事カルディアに担がれたと気が付いて、ひきつる笑顔で女神を見送った後、箒片手に階段を空飛ぶ勢いで駆け下りていったのだが。
「結構様になってるな、デジェルさん」
目を橙色に光らせたランタンが、天蠍宮の入り口を幾つも不気味に飾っていた。カルディアは菓子を突っ込んだ籠をぶら下げて、待ち構えていた。
彼は仮装などしていない。そんなものが必要ないほど、にやにや子鬼めいた笑みを浮かべて。
「だましたな、カルディア!」
顔が真っ赤なのがデジェルにはわかる。ここまで何人に見られたと思っているのだ!
ふりかぶった箒を振り下ろすが、カルディアは身を翻し、さっと避けて笑った。
「いやいや、大変結構だデジェルさん。いや、黒の森の魔女さん?」
「わ、私は女神様の前でとんだ恥を」
「楽しむ方がいいだろ。ほら、お前も言ってみな。トリックオアトリート」
「どうして私が」
「お前が来ると思って、お菓子を用意してたからさ」
にやにやしたランタンと、お菓子の籠の前で、デジェルの怒りはへなへなと萎えていく。
残ったのは、ただ、赤く染まった頬だけ、だ。

「……トリック、オア、トリート」
恥ずかしげな小声に、カルディアが目を細めた。
「はいはい、お菓子あげましょうね。その帽子にいっぱい、詰めてやるよ」
カルディアが、手にした籐の籠の中から、砂糖漬けの果物をつかみ出した。

ハロウィンです。街を見ているだけでも楽しいですね。
ハロウィンといえばお菓子です。お菓子です。
先日のイベントでは、皆様にたくさんのお菓子をいただいてしまいました。
本日、すべておいしく胃の中におさめました。
皆様幸せをありがとうございました……

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