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女神驚愕 

シジフォスは、その箱を見た刹那、小宇宙が暗黒に塗りつぶされそうな絶望を感じた。

あれは13歳だったか、14歳だったか。まだ少年であったが、少年であるが故の夢が、希望があった。
将来の射手座は間違いないと周囲に目され、その評価に甘んじることなく鍛錬を続けてきた結果が、
「…………うさぎ、ですか?」
やけに可愛い意匠の彫りこまれた聖衣箱だった、その瞬間、少年の精悍さと端麗さを混ぜ合わせた顔には呆然とした表情が浮んだ。
「レプスのシジフォス。なかなかよい響きだろう」
「響きのことは問題視していません、星に選ばれたのであれば」
彼にとって、青銅の聖衣は別に問題ではなかった。不満もなかった。そこから段階を追って黄金に辿り着く聖闘士も知られている。
ゆくゆく、小宇宙で手に入れればいいだけだ。射手は俺を待ってくれている。少年はそう思った。だが、問わずにはいられなかった。
「でも、ユニコーンとかペガサスとか、そういう格好いい青銅は……?」
せめてもうちょっと男子らしい名前と形態の聖衣が欲しい。しかし、教皇とハクレイは、悲しげに首を横に振るばかりだった。
みるみる、嫌な予感が膨らんできた。そういえば、箱の中身を見ていない。
シジフォスは、喉をごくんと鳴らし、その場で箱を開けてみた。
そして、その場に崩れた。
うさぎがうずくまったモチーフ。胴体部分は結構防御力がありそうだ。
だがヘッドギアがうさぎの耳だけで身を守れるのか。ネックは胴と離れており、首を中途半端ではあるが守ってくれるだろう。あとは……手首を守るカフス状のアーマー。針のように高い踵の靴。

「いやー毎度楽しみだったのじゃが、まさか男とは」
前聖戦の生き残り二人は、顔を見合わせ非常に残念そうに頷きあった。
「そうそう、黄金は顔選抜・うさぎはお尻選抜と言われておってのう」
「顔選抜だったんですか! なんとなく納得しました。ではなくて、あの、見るからに屈強なこの俺が、何故うさぎ? そもそもこの聖衣は女性専用では」
「いやいや屈強と申してもまだ10代の未完成な青さが実に甘美なミスマッチを」
シジフォスは3歩どころか10歩はのけぞった。顔も見る見る青褪めていく。
「形容しないでください、とても怖い! ただでさえ男子修道院みたいなものなんですから!」
「つまりシジフォス、そなたのお尻がこの代最高の」
「もう明日から走りこむのやめます! 下半身は金輪際鍛えません!」
本気で泣きそうな顔をした。それがまた可愛いとは流石の200歳越え二人も言わなかった。
「大胸筋もなかなかだのう。うん。ちょっと目線を変えれば美少年のうさぎという結構趣味的な」
「もういやですこんな聖域……ちょっと待って、聖衣が俺に反応している!?」
着ようとも思っていないのに勝手に聖衣は発動した。光に包まれる彼の体。何故かはち切れる彼の服、瑞々しい少年の色を濃く残した肉体が露になる。
「あっ! アンダーが!!!!」
隠す間もなく、金属的な音を立てて聖衣が装着されていく。
「……似合っているではないかその発達途上の大胸筋にそのうさぎの聖衣が、予想外に」
「そんな訳がありますかー!」
はじける小宇宙に、シジフォスの目から青春の涙がきらきらと飛び散った。なのに無情にも頭の上のうさぎ耳まで装着完了。
羞じらい思わず胸を押さえてへたり込む少年に、二人はうんうんと頷いた。満足であるらしい。
「前もって言っておけばよかったの、その聖衣を着るに際し、ストッキング以外の衣類は失われる」
「いざとなれば透過光処理が施されるから心配するでないぞ、はっはっは」
「こんなの俺は着たくありません! ていうか俺だったらこんなえげつない聖衣を着た奴と戦いたくないです!」
「「だがそれがいい!!!」」
二人の老人は、気持ちよく唱和してぐっとサムズアップ。

彼はその日からさらに励んだ。技を磨き、小宇宙を広げた。
純粋に、うさぎ座のシジフォスのままで死にたくなかったからだ。ザシャアと見得を切っても敵にプッと笑われる、そのような戦いぶりはやめたかったからだ。

それから時間が経ち、射手座に認められた彼は、その頃のことは忘れていた。
いや、忘れようとしていた。
「なーシジフォスー、俺青銅貰っちゃったー」
レグルスが頬を膨らませて人馬宮に駆け込んできた時にも、それを思い出しかけたが、心のパンドラボックスの中に仕舞いこんで鎖をかけた。
「聖域に来て1週間でか……。なに、俺も昔青銅だったよ。ところでなんの聖衣なんだ」
「こいぬー」
「なんだと、着てみろ」
シジフォスがつい即答してしまったのは、別にこいぬ座の聖衣姿が見てみたかった訳ではない。おおよその予測はついていた。
「どうよ」
渋々ながら着てみせた若干10歳の少年の前で、シジフォスは口元を手で覆った。
「……ああ、可愛いな」
どこが金属なんだと思われるむくむくの、ヘッドギアからフットギアまで一体型。シューズも一緒。シジフォスは、顔がゆるむのを堪えるために全身の筋肉を総動員した。
「可愛いって言うな。それすごく腹が立つ」
レグルスは頬を膨らませた。だがそれさえも可愛い。
「……目が泳いでる……教皇様達と同じだ。そんなに可愛い?」
「…………………ああ……誂えたように似合う……」
「うー。シジフォスのバカ。変態」
今度は涙目。どれだけ怖い目に遭ってきたのだろう、それを思うといたたまれない。しかし可愛いものは可愛い。
「いや変態ではない、俺はあの人達ほど変態ではない。多分これは、そうだな……甥っ子だから仕方ないんだ」
「甥っ子だから可愛いの?」
「ああ、甥っ子だから可愛いんだ、だから俺に怯えなくていいぞ」
カニス・ミノル。いたいけな子供に子犬の耳としっぽと首輪をつけたいだけなんじゃないか、と、シジフォスは疑念を抱いた。しかし可愛いのはしょうがない。甥っ子ではしょうがない。
「上を目指して励め。そうすれば、獅子がお前を認めてくれる。第一似合わなくなって、みんなそっとしてくれる」
レグルスが、その後いっそう鍛錬に励んだのは、一刻も早く、こいぬ座の着ぐるみいや聖衣を脱ぐためだっただろう。ほかならぬシジフォスにはわかっていた。

その少し前には、シオンが絶叫の尾を引きながら降ってきたことがあった。
何故今の今まで忘れていたのかシジフォスは思い出せない。きっと、そのことを真面目に考えることで、噴出させたくない記憶が蘇ってしまうからだ。
「うろたえるな小僧!」
教皇の間から響くあの声は間違いなくハクレイ師だった。そして、墜落したシオンが身に纏っていたのは、南国に住む天使のような鳥を象った聖衣だった。見ようによってはそう見えた。
「……ふうちょう座の聖衣……全て羽根ではないか……」
自分の胴体が掘り返したクレーターに突っ伏したまま、シオンは呻く。その身は、少し豪華に宝石をあしらわれた平服と思しき胴体と、背中の巨大な翼パーツのみで包まれていた。
「安心しろ、シオン。背後の防御力は抜群だ、背後の防御力だけだが」
「私には、この格好が階段を下りながら歌うための衣装にしか思えないのだ」
「いや、きっと空も飛べるはず。うろたえずに頑張れ」
聖域には恐ろしいものが潜んでいる。彼は確信した。

やがて聖戦が始まり、彼らは人の身でありながら神の戦に挑んだ。
その合間に、彼らは聖衣を失った。
「これからどうすれば……」
途方に暮れるシジフォスとレグルスに、同じく聖衣を破壊されたシオンが力なく首を横に振る。
「死に絶えた聖衣を復活させるには、大量の血が必要だ……しかし、修復している時間もない」
「心配いりません!」
凛とした声が、彼らの上に降り注いだ。
シジフォスの女神、いや彼らの女神、この世に足を下ろした智の概念、この上なく優しく美しい青灰色の娘が、瑞々しい頬に柔らかな笑みを刻んだ。
「換えの聖衣ならありますよ、レグルス、シジフォス、シオン。かつて貴方達を認めたもの達が」
レグルスの胸に、シオンの脳裏に、シジフォスの眉間に、とてつもなくいやな予感がよぎった。
そしてシジフォスは全てを思い出した。

「うわっなつかし! こいぬだ!」
「ふっ、久しぶりだな ふうちょうよ。相変わらずふさふさでなにより」
「この箱を開けた時に、俺は舌を噛んで死んでおけばよかったかも知れんな」

三者三様の、旧知の顔との挨拶の後、シジフォスは絶望を込めて尋ねた。
「女神よ、何故これを?」
「絶品であるとセージやハクレイに聞きました。でも、私は見たことがありませんから」
朗らかな、他意などこれっぽっちもない笑みに、もう退路がないと自覚せざるを得なかった。
と同時に、痛切な殺意を抱いた。女神にろくでもないことを吹き込んだあの老人二人にだ。しかし二人は既にこの世になく、青空を埋め尽くすロストキャンバスの中で幸せそうに笑顔でキメていやがるのだ。
「あらみんな可愛い! よく似合うわ!」
「……おそれながら女神よ、あなたもかなり目が変です……」


「「「これでも食らえ! いろんな意味でアテナエクスクラメーション!」」」
「これはたまらん! ひどい! 死んだ!」


「青銅最強説を俺はここに唱えるぜ……」
「うん、俺も。ちょっと青銅に誇りを抱いたぜ」
テンマが呟いた。耶人が同意した。だが明らかにその目は『俺ペガサスでよかった本当によかった!!!!』『ユニコーンでよかった!!!!』と互いに強く訴えていた。握り合う手はガクガクブルブルと震えている。
「俺もそう思う、少年よ」
哀愁を帯びた背中にポンポン状の尻尾を飾り、シジフォスは船首で見得を切った。かつてより遥かに逞しくなった体、苦味を帯びた表情が、その心を裏付ける。
「シジフォスがいれば負ける気がしないよな、いろんな意味で」
「いやレグルス、君も相当のものだ」
快進撃は、当人たちの苦悩をよそに、続く。

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Comments

女神に驚愕する話だった。


バニーはいつの時代も憧れです。かわいいよシジフォス脳内で赤面する姿も開き直る29歳も

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