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神聖なるもの・2 

BL的描写が含まれます。ご注意ください。

「なあ」
唐突に、少年が口を開く。窓の外に、雪が降り始めている。
「なんだ」
「俺、シジフォスのために戦っていいか」
一瞬、手が止まるが、シジフォスはすぐにその作業に戻った。
「腕を上げろ」
「話逸らすなよ。大事な話をしてるんだ。俺はシジフォスが好きだ。あんたのために戦いたい」
「まるで死ぬ間際のような物言いだな。ああ、俺もお前が好きだ。お前は、俺の自慢の弟子だよ」
「俺は今日、この時から、シジフォスのために戦う。次の戦いはあんたに捧げる」
シジフォスは、聖衣を着せる手を止めた。今度は長い。思慮深い様子でじっとレグルスを見詰め、穏やかに首を横に振った。
「我々は世界の全ての人のために戦うのだ。俺個人のような、小さいものであってはいけない」
「シジフォスはアテナのために戦ってるじゃないか」
一瞬、シジフォスはレグルスと同じ色の瞳で彼を睨んだ。しかし、それは思索に取って代わり宙をさ迷う。言葉を捜している風だった。
「俺はイージスの盾でありたいと思っている。聖なるもののために、世界を守るための盾に」
少年が、黄金の鎧に包まれた肩を竦めた。師の顔に、困惑が広がる。
「シジフォスは大きいな。けど俺にはそれがぴんとこないんだ。世界なんて大きなもの、実感が湧かない。手で掴めるものでないと、わからないよ」
弟子の手が、師の血に濡れた腕を掴んでいた。困惑の理由はそれであった。
「もう少しの間でいいんだ。この任務が終わるまででいい。シジフォス、あんたを守らせてくれ」
「レグルス、それはよくない考え方だと言ったろう」
「一人じゃ駄目なんだ。さっきみたいな戦いをして、一人でとっとと死んじまう。そうじゃなくなるために、あんたが必要なんだ。いつかちゃんとするから、それまでは」
少年の顔にも言葉にも、茶化せる要素がなかった。いつになく真面目な面持ちで、シジフォスを見上げていた。
シジフォスが、溜息を吐きながら肩を落とした。吐息はすぐに白く流れていった。
「……レグルス。お前は、テーバイの神聖隊の話を知っているか」
「知らない。なにそれ」
「遥か昔、テーバイというポリスに、恋人同士の150組300名からなる精鋭部隊があったそうだ。彼らはギリシャ最強だった。恋人の命を守るために、恋人にいいところを見せるために、勇敢に戦ったから」
弟子が苦笑いし、師の腕を手放した。少しの気まずさがそこにある。
「なんかちょっと気持ち悪いな。……今の俺みたいだけど」
「昔聞いたときは、何が神聖だと思ったものだ。恋人のためだなどと、なんて小さい軟弱な男達だと。しかし、そういうものなのだろうな。彼らにとって都市は、恋人の肩にこそ宿っていたのだ」
血塗れの顔に驚きがよぎり、次いで満面の笑みに取って代わる。
「そう、それ、俺はあんたの中に、正義とか、そういうものを見たいんだ。間違ってないだろ、俺」
「間違いであろうとなかろうと、俺には、止められない」
マントを肩に留めて、聖衣の装着が終わった。レグルスが身を乗り出し、屈んだままのシジフォスの頬を舐めた。
師の頬には、諦めに似た微笑があった。
「なんだこれ、血腥えな!」
そしてレグルスは、獅子の仔のようにあどけなく、危険に笑う。
「まだ俺、ガキだから、暫くは我慢しろよ。きっといつか、もっと大きなことわかるから」
自分の身を包むマントで、シジフォスの頭を覆った。髪から滴る血糊を、拭い去ろうというのだ。
「お前も相当だ、レグルス」
シジフォスの手が、マントの裾を掴む。レグルスの、自分に似た顔を拭う。
また、二人は唇を重ねた。一つのマントで互いを包んで。
「止めてもいいんだぞ、シジフォス」
「止めて止まるお前ではないだろう。俺は知っている」
レグルスは跪いたシジフォスの腿の上に乗り上げた。金属同士ががちがちと触れあい音を立てる中、血に塗れた唇を噛み合せ、二人は長い接吻をした。

ふと、二人が身じろぎを止めた。血に汚れたマントが頭から落ちた。
「……敵だ」
どちらからともなく呟いた。二人の眼には、狩人の色があった。獲物を求める獅子がいた。
その肌も聖衣も、内側から滲む小宇宙の黄金色に輝いている。
「二正面」
「俺が炎使いを殺る。もう片方は」
「任せろ」
ごく短い会話のうちに、同意が生まれた。そのまま二人は立ち上がり、小屋を駆け出した。
「なあ、ここじゃ寒いから、帰ったらなんだけど」
肩を並べて走りざま、少年が言った。
「なんだ」
「続き、させろよ」

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女神の背後に数億の人間を見るように。




そしてこの聖衣を修理に出されたシオン、大困惑あるいは大興奮

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