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神聖なるもの・1 

ゆるいBL的表現が含まれます。ご注意ください。

「大事ないか、レグルス?」
拳圧で吹き飛ばされた証拠に、深く積もった雪に長く深い轍を残したまま、小さな獅子は雪の上に大きく手足を広げる。
「大丈夫、ていうより、楽しかった!」
「……戦闘は遊びではないのだぞ」
黄金の弓と翼を持った長身の影が、逆光の中獅子に手を差し伸べた。獅子は手を引かれて立ち上がる。
助け起こした体は、まだ力がなかった。弓の男が、小柄な獅子を肩で支える。
「わかってる、そんなこと」
だらりとした拳から血が滴り、一面の雪に落ちて滲んだ。が、それさえも屍の山から溢れた血が広がるにつれ、一体化し見えなくなる。
「やっぱり、組み手より全然厳しいな。でも、いい技覚えた」
レグルスの、子供の頃、猫に似ていたその瞳は、戦いの血煙を映したせいか挑みかかる獅子の光を放っていた。
顔に飛び散った返り血は、ならば肉を貪った跡か。
「組み手と一緒にするな。……敵とはいえ命を落としている。敬意を払え」
「そうか、殺したんだ、俺」
この少年には、初めて人を殺した衝撃もない。そのようなものを感じる前に、全てを吸収し、己の血肉にするのだ。
「なあ、見てた? 俺が倒すの」
獲物を喰った代償に、獅子はその両脚で己の体を支えられない。二つの足跡は、一つが引きずられるように、もう一つに寄り添いながら続いていく。
「見ていた。初陣ながら、見事な戦果だ」
獅子が歯を剥いて笑った。勝気な顔が、急に子供じみる。
「だが、無駄が多すぎる。とどめを刺すタイミングが遅いが故に無駄な反撃を受けた。苦戦と認識しろ」
「うわ、またお説……教……」
少年の体が、ずるりと落ちかけた。獅子は、意識を手放していた。
「レグルス、細かいことは後で話そう」
射手が、辺りを見回す。しんと凍る耳に、敵の気配が近付いていた。そして、彼は、少年の体をしっかりと脇に抱えた。空いた左腕を、握り締める。
「それには俺が、ここを切り抜けなければならないな」

目覚めた時、少年の裸の上半身を白いマントが包んでいた。どこか、酷く粗末な板張りの部屋にいて、藁だか枯葉だかの上に寝かされている自分を見出した。
「うあ!?」
上半身の聖衣は解除されており、途端に臨戦態勢に入った少年の肌に鳥肌が走る。
「落ち着け、俺がわかるか」
穏やかな声に少年は意識を取り戻す。年長の男が、その体の傍らに跪き、包帯を巻いていた。
「あれ、俺……どうしたんだ……」
木の板を荒く組んだだけの、狩猟小屋にでもいるようだった。粗末な室内、窓から吹き込んだ雪が綿のように積もる。それでも雪と風は防げる。手当てをする男の、黄金色の手甲に伝う赤いもの。
「シジフォス、あんた怪我してる!」
レグルスが、体を跳ね上げた。包帯を中途に巻いた腕をあげ、シジフォスの顔をまじまじと見詰めた。髪は血に濡れてこごり、首まで赤いだんだらに染まっている。
「これは、敵の血を浴びただけだ。大したことはない」
少年のいつも大きく見開かれる瞳孔は小さく閉じていた。その顔には恐怖がある。師の言葉には嘘も混入しているとわかっていた。
師の得意とする攻撃は遠距離からのものだ。返り血を浴びる距離になる筈がない。
少年は目を逸らし、下唇を噛んだ。それは戦いで傷付き腫れていた。
「こんなことなら俺、もっとしっかり戦ったのに」
「わかればいい。次は手を抜くな。全ての技を見ようなどと考えるのは、お前の悪い癖だ」
「それをわからせるために、手出ししなかったのか?」
シジフォスは、その優しい面に厳しい表情を添えた。レグルスの言葉が裏打ちされたのだ。
「なあ、それで俺が死んだら……」
「お前は殺させない」
渋い声で、師は言った。
「俺が殺させはしない。腕を出せ。もう少し巻いておこう」
別にいいよ、と口答えしつつ裏腹に、レグルスはその言葉に従った。
「出血ほどの負傷ではないな。戦えるだろう」
包帯は巻き終わった。その上から、今度は聖衣を着せてゆく。若い、筋骨も整わない未熟な体が、壮年の男を象った甲冑に隠されていく。

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