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最後の晩餐 

甘い薔薇風味のシロップに漬かったバクラヴァは、トルコの人間が持ち込んだ味だった。
タコや魚介を大蒜の風味と爽やかなオリーブオイルで食べるのは、ギリシャ人にとって馴染みのやり方。
魚卵のサラダ、ブドウの葉で巻いた煮込み、塩ゆで肉もふんだんにあった。12人が肩を並べられる丸い大テーブルが埋め尽くされるほどに。
「よくこれだけ用意したのう。シジフォス、少々張り込み過ぎじゃぞ」
人馬宮の真ん中に椅子を並べながら、童虎は目を丸くする。
「人数分だが、多過ぎたか」
「12人じゃからなあ」
堆く盛り付けられた野菜の煮物に指を突っ込んで、その指を舐めた。
「うまい。これなら独りで一皿全部食える! 危ないのう!」
「行儀が悪いぞ」
「ほれ、よく食うのが2人おるし。レグルスとアルデバランだ」
「何気なく自分のことを棚にあげたな。それよりこっちの皿を運んでくれ」

黄金の12人が揃ったこの日、皆で夕食をともにしようと言い出したのは射手座の男だった。
ある者は大いに喜んで、ある者はさして嬉しくもなさそうに、その招待を受けたのだった。
この宴席は、射手座の弟子の少年が異例の若さで黄金の聖衣を得た、その祝いも兼ねていた。

古代の秘儀が残る聖域では、ワインを水で割って飲む。一周目は星座の逸話に倣い、水瓶座の男が注いで回った。
「次はレグルス、お前が注ぎなさい。黄金の中で一番若いのはお前だから」
「デジェル、その次はいいのか」
「アルバフィカが注ぐ。彼は滅多に出てこないから、よく見ておけ」
アスミタは飲み物を断った。かわりに水で満たした杯を手にした。
「理性がくもる。これで勘弁していただこう」
「アスミタ、お前は酒が飲めるのか、飲めないのか、どちらだ?」
「さてな、アルデバラン、君には関係のない話だろう」
自分の皮肉を棚に上げて、激昂しかかるアルデバランを、アスプロスが止めた。
「人には好きなように飲む権利があるだろう。アルデバラン、ここにアスミタがいることに感謝しようではないか。彼も新しい黄金の誕生を祝ってくれている」
「それもそうだな。すまん、アスミタ、アスプロス、俺が間違っていた」
アルデバランの太い腕がアスプロスの背中に回り、アスプロスが噎せるほどに叩いた。アルデバランの感情と愛情表現は激しい。
「新たな獅子の誕生と、我ら12人の栄光に、乾杯」
乾杯の音頭はシジフォスが取った。程よく薄めた最初の一杯は、すぐに彼らの喉に滑り込んでいく。
「レグルス、皆に挨拶をしなさい」
シジフォスに背を押され、レグルスは水瓶を手にした。それを見送るシジフォスの目は細められていた。

――シオン、何度も投げられたけど、もう投げられないからな
「ふむ、勝手に上がり込んだらまた空を飛ばせてやろう。覚悟しておきなさい」
――相変わらずでっかいな! なあ、金牛宮にまた行っていい?
「構わんが、もっと食って大きくなれよ、がはははは」
「君なら我々を超えていくだろう、レグルス、君に期待している」
――うん、アスプロス、また俺に色々教えてよ
「よう、レグルス、筆下ろしは済んだか? 俺はそういう方なら教えてやれるぜ」
――マニゴルドはそればっかりだよな! なのに強いとか信じらんねえ!
「おっといけねえ、お前のお師匠さんに睨まれちまった」
――アスミタ、来てくれてありがとう
「君の祝いではない。12人が揃ったことを祝ぎにきたのだ」
「よくやったのう。この短い期間で、まことでかした!」
――うん、俺、天才だからな! えへへ!
「その生意気な口にスカーレットニードルをくれてやろうか!」
――あはは、カルディア、唐辛子とか反則! 辛いだろ!
背中を叩き、笑い、抱きしめる。
エルシドは口を開かぬまま、杯を目の高さに掲げた。そして、剣の宿る手で、若い獅子の腕を軽く叩いた。
――デジェル先生、お世話になりました
「学業は中途になってしまったが、同格では仕方がないな。研鑽に励みなさい」
「ぜんっぜん勉強しなかったもんな! なあ、レグルスって文字読めんの?」
「カルディア、お前は他人のことが言えるのか」
――アルバフィカ、今まで押しかけてごめん
「いや、賑やかでなかなか楽しかった。君の成長を見ていると、あの日々も無駄ではなかったのだと思える」

聖闘士達は健啖だ。酒も食べ物も、速やかに彼らの胃の中に消えていく。
互いに笑い、酒を酌み交わし、最後の一切れの肉を取り合い、彼らは同じ時間を過ごす。
「私は失礼するよ」
アスミタが早々に席を立ち、宴を辞した。シジフォスが見送ってからは、さらに乱痴気騒ぎが悪化した。
「ガニュメデスって本当にいたんだなー」
酒を注ぐアルバフィカの姿を、レグルスは少し赤くなった顔でまじまじと眺めた。
「私の顔の話をするなと……」
「いやいや、アルバフィカが注いだ酒は味が違うのう」
「ははは、ここは姐ちゃんがいらなくていいや、アスミタにも一度酒を酌ませたいよな」
アルバフィカは、手にした真鍮の水差しで童虎とマニゴルドの頭を一度ずつ小突いて回った。
「いやいやあいつの酒は絶対まずい、あの綺麗な顔で説教などされたらどんな顔をしていいのかわからん」
「全く! 酔っ払いはこれだから! 酒など自分で酌むがいい!」
「あー……レグルス、君は、こうならないように、し、しなさい」
「シオン、顔が真っ赤だぞ。もう酔ってる?」
皆笑っている。他愛もない冗談を誰かがいい、他の誰かがそれを膨らませる。皆腹を抱え涙を流し、エルシドは口元を緩ませ、アルバフィカでさえ、顔を時折背けながらも笑っている。
そうして、無為な時間は過ぎていく。
「タコ、タコをくれ。アスプロス、そっちのをまわしてくれ」
聖衣を脱いだ今、彼らは、ただの人だった。ただの人としての最後の時間を、彼らは楽しんでいた。
「そちらのムール貝と交換だ。シジフォス、エルシドの前の皿をこちらに」
「うん、美味そうだな。俺も少し貰おうか」
「俺もタコ好き!!」
皿の行方を見守る者たちの間に、その時、沈黙が覆いかぶさる。
「……これはいかん、シジフォスの前でごっそりなくなった! ここは通行税が凄く高い!」
「一番己を棚に上げておったのはお前ではないか!」
「童虎、なんのことだ?」
「諸君、速やかに自分の食い扶持を確保しろ!」
「レグルス! お前もみんなに残せよ! 遠慮というものを覚えろこの天才バカ!」
互いに皿を奪い合う男達。激しい抗議の声。夜は、まだ長い。

処女宮の食卓に、アスミタは土産の包みを置いた。野菜の煮物や甘い菓子を、シジフォスは包んで彼に持たせた。
明日の朝食は少し豪勢なものになるだろう。
(……聞こえる)
人馬宮の喧騒が。入り乱れた小宇宙の輝きが、アスミタの盲いた瞳にも映る。それが、彼の唇を綻ばせた。
明日には出征してゆく者がいる。彼自身はある者について教皇から内偵の依頼を受けている。
何より明日の知れぬ身、あの面子で同じ食卓を囲むことは二度とないだろう。まして聖戦が始まれば、殆どが斃れることになろう。
一切は空だ。一切は流れていく。
(ならばこそこの一瞬を楽しむがいい。私達は、この苦しみの世で、全てを背負って生き、死ぬしかないのだから)



誰がどれ喋ってるとかどうでもいい……!!! 忘年会シーズンですね!
他サイトの皆様がお洒落なパーティやワインを書いてるのに、どうして私が書くと居酒屋になってしまうんだろう。しかも白木屋ライクな。
シジフォスは幹事なのに通行税が高い天然野郎。レグルスは単に成長期。
アルバフィカに酒を酌んでもらうのは私の夢だ。

シオンには誰か一人でいいからちゃぶ台返してほしいなあ
てか、設定にミスを発見しましたがノーカンでw
と思って単行本を読み返したんですが、わかりません
レグルスが黄金になったのはいつなの……! その頃双子は誰なの!w

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