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生 

全身の痛みで目覚めた。
「ああ……」
喉からかすれた声が漏れた。
遠くに見慣れた天井がある。暗い光景は、今が夜であることを示している。
人馬宮に置いた己の寝台から、シジフォスは天井を見ていた。いつの間にか。
あの戦いのことは記憶している。ようよう這うようにして女神の御前に辿り着いたことも。あれは昼だった。
その後のことがごっそりと抜け落ちて、今、突然この寝台に彼の肉体はあった。

(俺は生きているんだな)
女神とどんな言葉を交わしたか覚えていない。自分が何を言ったかも。だが、
(生きている)

ほっとする自分の吐息が遠かった。鼓膜はまだ完全には繋がっておるまい。
さらに全身の痛みのありかを数える。頭骨にひび。左足大腿部は骨折。腕にひび。肋骨も骨折。体中が火になったよう。
けれども生きている。痛みは、体と精神が危険を知らせるためにある。痛みがあるうちは、また戦える。
(……?)
腹部に大きな違和感がある。これは包帯のものではない。
誰かが、打撲の上をぐりぐりと押しているような。
痛みを堪えながら、シジフォスはシーツを引き剥いだ。
そして、腫れの残る顔で微かに笑った。
彼の腹の上に誰かの小さな素足が載っていた。折れて添え木をした腕を乗り越えて。
その主は彼の隣でまだ細い手足を大きく広げ、我が物顔に寝こけている。傍らの小さな頭。僅かな光を受けて輝く金褐色の髪。子供の高い体温。
「レグルス」
そっと呼びかけるが返事はない。
「……」
退く気配がないので、折れていない片手でその足の裏を擽った。
小さな足が腹の上で悶え、それが隣にある熱い体に伝わっていく。
「ひゃは!? ひゃ、シジフォス、こそばゆいよ」
引っ込めようとする足首を掴んで引っ張った。短い足指がもぞもぞと蠢いて抵抗するのが面白かった。
「レグルス。いい夢を見たか」
口の中のどこかが腫れている。どこか回らぬ舌でシジフォスは言った。
「よかった、目が醒めないかと思った! あは、ははは」
きんきんした子供の笑い声が部屋に満ちた。頭に響いた。


「つっ、大声を出すな、傷が痛い」
「そうだ。静かにしないと。ごめん」
隣の体がもぞもぞと動いた。足を彼の腹の上から引っ込めた。最初からそうやって普通に添い寝をして欲しいものだ、とシジフォスは僅かに呆れもする。
「静かにしてろって教皇様に言われた。静かに見張ってろって」
「見張るのなら添い寝の必要はないだろう」
「昨日まで寝ずの番してたんだ。それに今日はちゃんと静かに寝てた」
「寝ずの番はありがたいが、怪我人を蹴るのはどうかと思うぞ。レグルス、俺は一体何日寝ていた」
「3日」
「そうか、記録更新だ……ところで、少しベッドが狭いんだ。降りてくれないか」
その言葉を聞いた途端、レグルスの体が、自分の体にしがみつく。
「いやだ」
目線を動かそうと身じろぎすると、鋭い痛みが走って眉を顰めた。しかし、彼はレグルスを跳ね除けることができなかった。レグルスの鼻は、腕に巻いた包帯に埋められていた。
「今のシジフォスは、いやな臭いがする。父さんと同じだ」
血膿の臭いが胸糞悪いだろうに、レグルスはその臭いを胸に吸った。吐く息が包帯を暖め傷が疼いた。
「この臭いを嗅ぐと、またいなくなるんじゃないかと思う。だから、目が醒めるまでいようと思ったんだ」
「レグルス」
「でも朝が来るまで信じられない。夢かも知れない。明るくなるまでここにいていいだろ」
シジフォスは、少年が父の墓と黄金の獅子を守っていた姿を思い浮かべた。あの孤独な眼差しで、ここにいたのだろうか。3日の間。
「そうか。レグルス、少し頭をあげろ」
シジフォスは、添え木を施された腕を動かし、レグルスの頭の下に潜らせた。
「?」
「心配するな、俺はいなくなったりしない。手のかかる弟子がいることだし」
「こっち、痛い方の腕じゃなかったっけ」
「わかっていてこっちに寝たのはお前だ」
自分の太い腕は、子供の枕には高すぎるかも知れない。しかしレグルスは素直に頭を乗せた。
血と膿と薬草の臭いのする己の体。それは、レグルスの父も同じであったろうか。あの最強の獅子、病んで去ったイリアスと。
「心配するな、俺はいなくなったりしない」
「約束だぞ、シジフォス」
寝癖のつきやすいもしゃもしゃとした髪に、シジフォスは顔を寄せた。弟子であればしない寝る前のキスを、息子にするようにその頭にした。
「いなくなるのは、ずっと先にしよう。お前が老人になるぐらい先のことに」
小さな獅子の頭は、生きている証、太陽の匂いがした。



とても守れない約束。

そして段々獅子×射手精神が盛り上がってくる……
いっそ普通にキスぐらいさせようかと思ったよ!

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