FC2ブログ

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

御伽噺の中へ 

彼女の前に跪いた男は、黄金色の大きな箱を背負っていた。
擦り切れた衣服を身につけているのに、それだけが見世物のように酷く目立つ。
人の目に堂々と晒し、散々に振り向かれながら、気に留める素振りもなかった。
「その箱の中身は、何が入っているんですか?」
サーシャは、その箱に負けず大きな手に繋がれて歩きながら、無口な男にそれを尋ねた。
「一言にするなら、鎧です、女神よ」
彼は、小さな子供に過ぎない彼女に、丁寧な物言いで応えた。
歩幅も小さくし、彼女に合わせる気遣いを彼は持っていた。
「鎧なんですか? あの、シジフォスさんは、本当は騎士さんなのですか?」
男は、見上げる彼女に振り返った。凛々しい眉の下で、瞳が優しくサーシャを見下ろしている。
唇がほのかに笑っている。どうやら、自分が思っていたより若いようだ。
「とも言えます。私はあなたに仕える、騎士や軍人のようなものです」
サーシャは、既に何度も言われた言葉に、再び首を捻った。
「よくわかりません」
「わかります。今は、そうでしょう」
「そういう遊びは、したことがあるけど」
「遊びですか?」
いささかの戸惑いを含んだ声で、シジフォスは尋ね返した。
「お姫様ごっこ。本当はお姫様で、お城から騎士さまが迎えにくるの」
「なるほど。私はなかなかいい役回りのようですね」
「昔はテンマか兄さんがしてくれたけど、もう恥ずかしがって遊んでくれないの」
そこでサーシャの言葉は途切れ、若い男もまた恥じるように目を伏せた。
馴染んだ道の石畳を、小さな歩幅で歩いていく。もう戻れない道なのかも知れない。
驚きながら自分と彼を振り返る人たちは顔見知りで、その人たちともう会うこともない。見慣れた町並みも置いていく。
兄達とも遊べない。大きくなったからではなく、この町を出て行くからだ。
自分ひとりだけが御伽噺の中に入り込んでしまった錯覚の中に、石畳は繋がっている。

「……お許しください。御身のためなのです」
ようやく若者は搾り出すように言った。その声は酷く苦しげで、自分のしていることの意味を知っているのだと彼女は思った。
「軍人さんなら、戦うのですか?」
気を取り直し、サーシャは再び尋ねた。
「はい。私達はあなたのために戦います。88人の聖なる闘士、のみならず聖域の最後の一兵まで」
88人。よかった、王国のお姫様ではないみたい。その微々たる数に少女の胸は安堵する。
「どこの、誰と?」
「この世の愛の正義のために、神と」
また不安が生まれる。シジフォスは、一度として嘘やごまかしのような言葉を口に出さないのだ。こんな芝居がかった言葉なのに、今も、その前の88人の闘士と言ったときも。
「御伽噺みたい」
「あなたは今後ご覧になるでしょう、御伽噺のような、神話そのものの戦いを」
サーシャは笑おうとしたがもう笑えなかった。ただ一度、背後に置いてきた全てを振り返った。
思えば、城に連れ戻されたお姫様は、その後幸せになれたのだろうか?

スポンサーサイト

Comments

近々とかいうレベルじゃなかった
その日のうちに一本とか……明らかに病気です……

Comment Post















管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

Trackback URL
http://icarusdescending.blog78.fc2.com/tb.php/218-a2ec8113

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。