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裸のつきあい 

長期間の耽美に耐えられない体です。今回はちょっとお下品です。
むさくて下品なのが駄目な方は読んではいけません。

「これは素敵だなあ。湯船にオレンジ入れるなんて豪勢ですね」
その空間に入るなり、セルピコが歓声を上げた。蝋燭の光が、充満する湯気を柔らかく照らしていた。
えも言われぬ芳香が、こぢんまりとしているがやけに居心地のいい空間に漂っている。
「ファルネーゼ様もお喜びだっただろうなあ。コンフリーが入ってますね。ガッツさんの傷にもよさそうです」
「悪くはねえが、俺から見りゃ草の匂いだな」
切れ長の眼が薄く開いて、ちらりとガッツを見た。『何を言っているんだこの野蛮人は』と言いたげに。
「そうそう、お風呂の使い方わかりますか? 貝の中に入ってるのが石鹸、それで泡立てれば大体の汚れは落ちます」
捲ったシャツから頭を出しながら、ガッツが唇を尖らせた。
「石鹸の使い方ぐらい知ってるっつうの。で……なんでお前がいるんだよ」
隣り合わせに服を脱ぎかけた二人の男は、互いに顔を見合わせた。実に嫌そうに。
「好き好んで来てると思いますか? ご命令だから来てるんです」
本気の悪態を吐きながら、細身の男がベストに続いてシャツを脱ぎ、脱衣籠に落とした。その肌には、腕となく胸となく、数多くの刀傷が残されていた。
「どんなご命令だよ」
「あなたの背中を流しなさいと。私が手伝わなければ、ファルネーゼ様が直々に」
「背中の皮を剥がされかねねえな。ま、そんなこたいい。汗を流すか」
ズボンを脱ぎ、義手を外して歩き始めた男の肩を、セルピコが掴んだ。振り返る男の目の前に、タオルを突き付ける。
「隠してくださいよ、見たくもない」
「見たくなきゃ見なきゃいいだろ、隠してる方がよっぽど気持ち悪い」
ガッツは湯船の傍らで胡座を掻き、体に湯を掛ける。体から、汗と血が落ちていく実感に、一つしかない目を細めた。
「居たくもないのにここにいる身になってください、全く」
タオルを腰に巻き、セルピコは膝をガッツの前に突いた。
「ほら、洗いますよ。まずは頭」
「……なんで前からなんだよ」
「後ろから首掻かれたいですか? だから、早く隠してください」
文句のいいようがなかった。仕方なく、腰にタオルを巻き付ける。こちらとしても真正面から見たいものでもないし、先方にしたってそうに違いあるまい。そうして、ガッツは男に向けて頭を垂れた。
むっつりとした顔で、頭から湯を浴びせて、セルピコはガッツの頭に石鹸を無造作に擦り付ける。
「ッてええええええ!」
傷に石鹸がしみる。眼も覚めるような痛みに、顔を顰めた。
「髪というより、針金ですね、これは。手に刺さりそうです」
ごわついた髪の中に、セルピコの指が入ってくる。少し指が動いた途端、顔に何か黒いものが滴り、掻いた胡座の上に滴った。
「おい、どす黒いもんが垂れてきたぞ!?」
「それどころか砂が出てきたんですけど。泡も立たないし。どんな暮らししてきたんです!?」
他人の指が、がしがしと頭皮を擦る。憎しみでも籠もっているのかと疑う手付きで。
「おい、傷があんだよ、もっと丁寧に扱えっつうの」
無言のまま、セルピコは手桶で湯を掬い、ガッツの頭の天辺からぶちまけた。
「わぷ、……ぺっ、もっと優しくできねえのかお前は!」
「却下します。徹底しなくては私が落ち着きません。正直、あなたは血生臭い上に汗臭いです」
再び、茶色い石鹸が頭に擦り付けられた。
「うーん、あと3回ぐらい洗わないと駄目ですね」
今度はちゃんとした泡が、眉を超えて垂れた。いてえ、と呟きガッツが目を閉じた。その刹那、セルピコの親指が、閉じた瞼を思い切り突いた。
「いてっ!?」
「あ、しまった。大丈夫でしたかー……ちっ」
明るい声で謝るが、その後の何かを聞き漏らすガッツではない。
「おい、今の舌打ちはなんだ。俺の目の中に親指突っ込もうとしたろ」
「石鹸で手が滑っただけですよ」
「全然気のせいじゃねえ! 俺の目玉はあと1つしかねえんだからな」
「なんだ、ばれましたか」
全く気が休まらない。色々な疑念ばかりを膨らませはしたが、ガッツはセルピコに身を委ねるしかないのだった。

「おい、ガッツの兄ちゃん、入っていいかー?」
イシドロの声が外からした。
「おう、入れ」
ドアが開き、外の涼しい風が入り込んだ。続いて顔を突っ込んだ刹那、イシドロが目を瞠る。
「……セルピコ、どうしたんだ? なんかもの凄い形相なんだけど」
セルピコは既にガッツの背中に取りかかっている。
「もうね、頭に続いて背中もこうなんですね、あなたという人は」
親の敵のように、ある意味主の敵には違いないガッツの背中を、すさまじい気迫で擦り続ける従者がいる。
「それじゃガッツの皮が剥けちゃうぞ、ピコ?」
「頭洗えば充分じゃねえか。完璧主義もいい加減になあ」
「このまま入ったら湯がどろどろになるでしょう! イシドロさん、替わってくれませんか。そろそろ手が疲れました」
「お、いいね、洗うのもほどほどに」
「無理です。予言しますけど、イシドロさんも私と同じようになりますよ」
すっぱりと来ているものを脱ぎ去った少年が、股間を隠しながら歩み寄って笑い声を上げた。
「はは、確かにすげー! 兄ちゃん、意外と色白いのな、汚れ落ちたところは」
「そう、色が違うんですよ、血糊のせいなのか垢なのか」
「そこまでか」
まめに体は拭いていたのだが、それでは足りなかったということか。
「じゃあ俺がっ、兄ちゃん俺がやるよ!」
イシドロが、ガッツの背中に取り付いた。きらきらと目を輝かせて。
「……やっぱ痛ぇ……」
「うは、落ちる落ちる、すげー落ちる! 逆におもしれー!」
「変な人ですね、こんなことが楽しいですか?」
「おうよ! だってこんな背中、すげーじゃん! どうしたらこんなになるんだよ」
「死なないように踏ん張ってたらこうなっただけだ」
「その満身創痍で、よく生きていらっしゃるものですね。感心しますよ」
セルピコは自分の体を洗い始めている。ガッツに背を向け、金色の髪を石鹸の泡で掻き回して。
その背中に、刀傷はない。常に敵に顔を向ける戦いを続けてきたのだと、ガッツは悟る。
ただ、背中の皮膚は細く薄い変色を帯びている。それは、鞭打たれた傷が癒える時にできるものに、どこか似ていた。
「なー、セルピコはどうしてそんなになったんだ?」
ガッツが尋ねずにいたことを、少年が手を動かしながら、それとなく口にした。
「いえ、ガッツさんに較べたら、こんなの大したことないでしょう」
「刀傷沢山付けて、どうしてそうなったんだよ、教えろよ」
穏やかな沈黙が、そのまま落ちた。言葉を選んでいるような気が、ガッツにはした。
「遊びみたいなものですよ。ガッツさんのとは、比べものになりません」
「そうかなー。俺ももうちょっと傷、欲しいよなあ」
子供は、無邪気だ。単純に、苦労を憧れに置き換えることができる。

風呂桶に背を凭れ、ガッツは一つしかない目を閉じた。全身を湯に浸すと、なにやらそのまま溶けていきそうな気がした。
「風呂なんていつ以来ですか、ガッツさん」
「記憶にねえ」
セルピコも、風呂の中でゆったりと足を伸ばし、オレンジの皮を剥いている。風呂の中で暖まっていた奴だ。流石にもう何も隠してはいない。
昔、今はいない奴らとの付き合いも、このようなものだった気がする。
「そんな人と同じ風呂なんて……ああ、人生はわからない」
「それ食うのかよ。俺にもお前がわかんねえ」
「オレンジは貴重品ですよ。半分食べます?」
「いらねえって」
外で体を洗っていたイシドロが、股間をタオルで押さえたまま湯船をまたいだ。
「おめえ、隠さなくていいんじゃねえの?」
ガッツが見咎めると、イシドロはぴたりと動きを止める。
「な、なんだよ、別に隠してもいいだろ!?」
気まずそうな顔、みるみる膨らむ頬に、ガッツも何かを悟った。
「……ふーん、なるほどな」
右手を伸ばし、さっとタオルを奪い取って遠くに捨てた。
「剥けてもいねえうちは隠さなくてもいいっての」
「あ、ひでえ! それはひでえ!」
全身茹で上げたように赤くなるイシドロをちらりと横目で見て、セルピコは手の中のオレンジを二つに割った。
「毛が生えてからでもいいんじゃないですかねえ」
「畜生! 二人とも自分が大人だと思って! そのうちちゃんと剥けて立派に育ってやる!」
セルピコの唇が、薄く笑っているのがガッツには見えた。おかしげな目配せも。
つまり、自分も同じような顔をしているのだろう。

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