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休暇・0 

仮病

「熱があるみたいなの」
 唇に触れるほどシーツを引き上げて、少女は目を閉じた。彼は小さな手で、ファルネーゼの額に触れ、戸惑いながら首を傾げた。
「おかしいですね、普通みたいですよ」
 高い少年の声がいぶかしげに答えた。
「あるもの。なんだか寒気がして、気分が悪いの」
「そうかなあ……ちょっと失礼しますよ」
 ファルネーゼの額の髪を、セルピコの手が掻き上げる。
 その顔は、いつも通り、すべすべとした健やかな色をしていた。肌はむしろひんやりとしている気がする。どこがおかしいのだろう。熱があると言うけれど、もっとよく計らなければわからないものだろうか。
 彼は、失礼しますと言って腰を曲げ、彼女の額に自分の額をくっつける。
「あ……何するのよ」
 恥らっている声が間近にする。
 案の定、少女の額は、ひやりと冷たい。病人の持つ、内側で何かが燃えているようなあの感触はなかった。
 御嬢様、今日は家庭教師もおやすみなのに、なんで仮病なんか使っているんだろう?
「ないみたいですけど……。少し暖かいものを飲んだら、よくなるのではないでしょうか」
 疑問には思いながらも、セルピコは既に彼女の気まぐれとその対処には慣れていたので、仮病を追求することもなく、勧めた。
「じゃあお前が飲ませて」
 ファルネーゼは嬉々として訴えた。
 嘘が下手な人だな、と彼は自分の命を救った少女のことを考える。仮病なら、そんなに露骨に元気になっちゃ意味がないのに。
「ごめんなさい、それ、できません」
 セルピコは済まなさそうに口篭りながら言った。ファルネーゼ様、嘘ってこうやって吐くものなんですよ。
「どうして? お前、私を看病なさい」
 元気な病人は、シーツの間で語気を荒げた。
「ぼく、これからおやすみなんです」
 それだけは、ファルネーゼであろうとも譲る気はなかった。使用人達に許されている、月に一度の休暇だ。たまには母の様子を見に行かねば、内心に抱いている罪悪感を拭い去ることはできそうにないのだった。
 すると、ファルネーゼが顔を歪めるのがわかった。何故だろう。彼女は本当に苦しそうだ。
 泣く瞬間に人の表情が変わるということを、彼はまだよく知らないでいた。
「いや! お前がいてくれなきゃ、いや!」
 そう叫ぶと、彼女はくるりと寝返りを打ち、セルピコに背を向けた。
「ファルネーゼ様……?」
「お前がいなくちゃ、いや!」
 枕に顔を埋めて少女は崩れる声を押し隠す。
「……どうしたんです、ファルネーゼ様」
 彼は呆然と、泣き始めたファルネーゼの震える背中を見詰めていた。

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